ペンネーム 田舎育ちの食いしん坊
素材の味を楽しむという言葉がありますが、これは一概に味覚で楽しむだけに限らないと最近感じるようになりました。
私の趣味は一人旅です。車で車中泊をしながら北海道をまわり、道の駅や気になったお店があれば立ち寄り食べ歩きをしています。また、近年キャンプブームではありますが、これもまた私の趣味の一つです。これらに共通することは食べるまでの工程にあると感じました。
去年は小樽へ車中泊旅行に行きました。目的は市場の魚です。市場は活気のよい店員さんの掛け声や新鮮な魚のにおいでいっぱいです。普段木が生い茂る田舎で生活している私には新鮮な空間でした。店員さんは語ります。「これは今日の朝とれたてだよ!」「この魚は煮物がおいしいよ!」普段行くスーパーにはない人を介して得られる情報がそこには飛び交っていました。1つのお店に立ち止まり「炭焼きにいい魚はありませんか」と聞きました。すると「それはもうこれしかないね!」と言って指さしたのは銀カレイのカマ。普段は手を出さない食材でした。「脂がのっていて炭焼きに最高なんだよ」と言われ購入せずにはいられませんでした。「また来なね」と初めての私を満面の笑みで送り出すおじさんがとても印象的でした。その夜、道中で買った地元野菜などと一緒に炭焼きをしました。炭焼きもこの日のために自作した焼き台を使い、火おこしから全て一人で行います。今回は海が見える砂浜に車中泊することにし、夕日が沈むのを見ながらの食事です。火がある程度育ったところで銀カレイを炭の上に横たわらせるとすぐにいい音と香りが立ち、片手に握っていた飲み物が進みます。しばらくすると脂の落ちる音がします。初めて会う私においしい食材を親切丁寧に教えてくれた店員さんの優しさを思い出すと同時に、商品について楽しそうに話す店員さんの顔が頭に浮かびます。銀カレイはふっくら焼き上がり、脂ものっていて身の味が濃く醤油など調味料がいらないほどでした。この時食べた銀カレイの味が忘れられないのです。
素材の味を楽しむとは、生産者の思いや食事ができるまでの過程を理解することも重要だと感じます。例えば、お店でも料理に使われた食材の産地や生産者の苦労やこだわり、調理人の工夫などを聞いて食べるのと何も聞かず料理名のみ聞いて食べるのでは味の感じ方が異なります。素材の味を楽しむとは味付けをせずに素材のみの味を楽しむという意味の他に、こういった素材自体を知ることも必要なのです。
最近ではコンビニやスーパーなどで総菜を買い、家で食べる中食や外食が多くなっています。時間をかけず高品質な食事を食べたいという現代社会のニーズへ的確に応える中食・外食に対して、素材を知ることは時間がかかりますし自分で調理すると必ず高品質とは限りません。しかし時間や労力をかけて素材を知る、食事を知る価値があると私は思います。毎日とはいいません。時折食事と向き合う時間を作り、素材の味を楽しんでみてください。まだ知らない素材の「味」に気づくことができます。そしてこれらの味を知ることが食育や食生活改善へ繋がっていくと私は思います。